ネパールの光と祈りに包まれたお祭り、ティハール。
街を彩るのは、鮮やかなマリーゴールド(現地ではゲンダと呼ばれる)の花輪と、夜に揺らめくディヤ(オイルランプ)の光。ふたつが重なり合い、街全体を幻想的な雰囲気で包み込みます。
家やお店の入口には、色粉や花びらで描かれたランゴリ(多彩な模様の装飾)が広がり、そこにディヤやろうそくの灯りが添えられて、訪れる人や神様を迎え入れます。
2024年10月から11月に実際にネパールを訪れ、ティハールの魅力を五感で味わってきました。この記事では、その体験を交えながら、ティハールの魅力をお伝えします。

ティハールとは?
光の祭りとして知られるティハールは、収穫への感謝も込められたヒンドゥー教の大切な祭りで、ネパール全土で盛大に祝われます。ディワリーとも呼ばれ、毎年10月~11月の間の五日間にわたって家族や動物たちを祝うのが特徴です。
期間中は、家々がディヤの灯りとマリーゴールド(現地ではゲンダ)の花で彩られ、入口にはランゴリが描かれます。ランゴリは家庭ごとに異なり、花びらや色粉で描かれた模様にディヤやろうそくの灯りが添えられて完成します。
兄弟や動物たちへの感謝の祈りが捧げられるのも、この祭りの大きな特徴です。特に「ラクシュミの日」には、富の女神ラクシュミが家庭に幸運をもたらすと信じられており、街はひときわ明るく輝きます。

ティハールの5日間
ティハールは五日間にわたり、それぞれの日に異なる意味と祈りがあります。ここからは、私が実際に体験した様子も交えながら、日ごとの祭りの雰囲気を紹介していきます。
ティハールの5日間のスケジュール
- 1日目:カグ・ティハール(カラスの日)
- 2日目:ククル・ティハール(犬の日)
- 3日目:ラクシュミ・プジャ(ラクシュミの日)
- 4日目:ゴヴァルダン・プジャ(牛の日)とマハ・プジャ(自己崇拝の日)
- 5日目:バイ・ティカ(兄弟の日)
1日目:カグ・ティハール(カラスの日)
ティハールの最初の日は「カグ・ティハール」、カラスに捧げ物をする日です。
カラスは死の使者とされ、この日に食べ物を捧げることで災いを遠ざけると信じられています。
朝になると、人々は屋根や庭に米粒やお菓子を置き、黒い影が空から舞い降りてくるのを待ちます。街全体はまだ静かで、祭りの準備が始まったばかりですが、家々の入口には「ランゴリ」と呼ばれる色粉や花で描かれる模様が少しずつ描かれ、「ディヤ」と呼ばれる小さなオイルランプも並べられていきます。
カグ・ティハールは、控えめながら祭りの幕を開ける役割を担っています。
この日はパタンに滞在していました。午後にネパールへ到着したのですが、街ではすでにお祭りや新年の準備が始まっていて、飾りやお菓子の詰め合わせを売る屋台が立ち並び、マーケットは大変な賑わいを見せていました。


電飾で飾られた街並みを歩き、ダルバール広場近くのマーケット通りに足を踏み入れると、これから始まるティハールの体験への期待で胸が高鳴り、ワクワクした気持ちが自然と高まっていきました。


2日目:ククル・ティハール(犬の日)
ティハールの二日目は「ククル・ティハール」、犬を敬う日です。
犬は死者の魂を導く存在、そして人間の忠実な友として大切にされ、花や祈りを捧げます。
この日には、犬の首にマリーゴールドの花輪がかけられ、額には赤いティカが施され、特別な食べ物が与えられます。街では飾られた犬の姿が目に留まり、家々の入口ではランゴリが前日より増え、夕刻にはディヤやろうそくの灯りも整えられていきます。
ククル・ティハールは、人と犬の結びつきを讃える役割を担っています。
二日目もパタンに滞在していました。街を散策したり寺院を巡ったりする中で、花輪やティカで飾られた犬に何度も出会うことができました。音楽隊が犬に向かって演奏をしている様子もあり、その光景はとても印象的でした。


街では家やお店ごとにマリーゴールドやランゴリの準備が進み、電飾も一日目よりさらに増えて華やかさを増していました。昼から夜までマーケット通りは人で溢れ、東京の大晦日の上野アメ横や築地のような賑わい(私自身は大晦日に行ったことがなくメディアで見た印象ですが)を思わせるほどでした。


さらに、三日目に女神ラクシュミを迎えるための準備も始まっており、家や店の前では多くの人々がランゴリを描いていました。ひとつとして同じもののない美しい光景が広がり、それを見て歩くだけでも心を大きく揺さぶられるほどでした。


3日目:ガイ・ティハール(雌牛の日)/ラクシュミ・プジャ(富の女神の日)
ティハールの三日目は「ガイ・ティハール」、雌牛を敬う日であり、同日の夜に「ラクシュミ・プジャ」が行われます。
雌牛は母性と豊かさの象徴とされ、女神ラクシュミとも結びつけられます。
日中は雌牛に花輪やティカが捧げられ、清めと感謝の祈りが行われます。夜になると、家や商店の入口に多彩なランゴリが整えられ、窓辺や屋根にもディヤが並び、マリーゴールドの飾りがいっそう映えます。通りでは歌や踊り(地域によってデウシ・レイなど)が行われることもあり、五日間の中でも特に華やかな夜となります。
ガイ・ティハール/ラクシュミ・プジャは、豊かさと繁栄を祈る中心の日としての役割を担っています。
この日もパタンに滞在しました。タメル地区のような賑やかな都会も魅力的ですが、ネワールの歴史と文化が色濃く残る場所でメインの日を過ごしたいと思い、あえてパタンを選びました。
町全体が飾りや光に包まれ、至るところで女神ラクシュミを迎えるランゴリやろうそくの灯りが輝き、美しい光景が広がっていました。


ネワール新年の大晦日にあたるこの日、夜のメインストリートでは太鼓を叩き、ろうそくを手に歌いながら練り歩く人々の姿がありました。動画を撮っていると、笑顔で手を振ってくれる人もいて、その温かさに胸が熱くなりました。夜のダルバール広場ではセレモニーも行われ、幻想的な雰囲気に包まれていました。
街は美しく賑やかで、人々は活気と笑顔にあふれ、ここでしか味わえない貴重な体験に深く感動しました。


ネワール族について
ネワール族は、ネパールのカトマンズ盆地を中心に暮らしてきた先住民族で、独自の言語(ネワール語)や文化を受け継いでいます。
特徴的なのは、ヒンドゥー教と仏教の両方の伝統を大切にしている点です。同じ家族の中にヒンドゥー教徒と仏教徒が共に暮らすことも珍しくなく、お祭りや儀式も両方の要素が融合しています。そのため、宗教を越えた独特で豊かな文化が根付いています。
4日目:ゴルー・ティハール(雄牛の日)/ゴヴァルダン・プジャ/マハ・プジャ
ティハールの四日目は、地域や民族によって行われる儀礼が異なります。
農耕地では ゴルー・ティハール(雄牛に花輪とティカを施し、働きへの感謝を示す)、ヒンドゥー教の一部地域では ゴヴァルダン・プジャ(牛糞で丘をかたどりヴィシュヌ神を讃える)、ネワール族の家庭では マハ・プジャ(自己を清め、新しい一年を祝う)が行われます。
伝統的には同じ家庭で複数の儀礼を同時に行うことはありませんが、近年は出身や背景の異なる人々が暮らす地域で、折衷的に複数の要素を取り入れる例も見られます。
また、この日はネワール暦の元日にあたり、地域によっては広場で儀式やパレードが行われます。夜には子どもや若者が家々を訪ね歩き、歌や踊り(デウシ・レイ、バイロ)を披露してお菓子や寄付を受け取る風習(地域差あり)が広く見られ、元日と重なる地域では一層賑やかになります。
四日目は、労働への感謝、新年の節目、そして共同体の絆を強める日として、多面的な役割を担っています。
この日は午前中にパタンに滞在しました。
ティハールの「マハ・プジャ(自己を清め、新しい一年を祝う儀式)」は家庭で行われるため、実際に見ることはできませんでした。
一方で、ネワールの新年にあたる行事では、パタンのダルバール広場が朝から人で溢れ、大規模なセレモニーが行われていました。その後は団体ごとに記念撮影をし、そこから街中をパレードする様子が見られました。ポリスの人数も非常に多く、町全体が大きな行事に包まれていることを実感しました。
実はティハールについては事前に調べていましたが、ネワールの新年については知らず、この大規模なお祭りがティハールの一部なのか疑問に思い、ホテルの方に尋ねたところ「ネワール族の新年」だと教えていただきました。
偶然とはいえ、ネワールの人々にとって大切な記念の日に立ち会えたことは、とても貴重な体験であり、心に残る思い出となりました。


パタン観光の記事も投稿しています。ダルバール広場なども紹介していますので、ぜひそちらもご覧ください。
午後はタメル地区に移動しました。
到着すると、街全体がお祭りムード一色。楽器を奏でながら踊る人々の集団があちこちを練り歩き、トラックの荷台に乗った人々も踊り騒ぎ、まさにどんちゃん騒ぎといった雰囲気でした。旅行者にお酒を振る舞ったり、握手を交わしたりと、人々の陽気なエネルギーがあふれていました。


ティハールの装飾はこの日も美しく、街全体を華やかに彩っていました。
夜になるとさらに活気を増し、あちこちで音楽と踊りが繰り広げられていました。私が通り過ぎようとすると「あなたも見ていきなよ」と地元の方に声をかけていただくこともあり、その温かさに触れることができました。


また、歌や踊り(デウシ・レイやバイロ)を披露し、お菓子や寄付を受け取る風習もレストランや商店で何度も目にすることができ、ネパールらしい文化を体感できる貴重な時間となりました。
5日目:バイ・ティカ(兄弟の日)
ティハールの最終日は「バイ・ティカ」、兄弟姉妹の絆を祝う日です。姉妹が兄弟の額に七色のティカを施し、花輪や供物を整えて健康と長寿を祈り、兄弟は贈り物で感謝を示します。
この日は家庭の儀式が中心となり、街の賑わいは穏やかになります。家々の入口にはランゴリとディヤが残り、マリーゴールドの彩りとともに五日間の祈りの時間が締めくくられます。
バイ・ティカは、家族の結びつきで祭りを結ぶ役割を担っています。
この日もタメル地区に滞在しました。家庭での儀式が中心となるため、街中でティハールらしい様子はあまり見られませんでしたが、飾りや光はまだ残っていて、人出も多く賑やかな雰囲気が続いていました。
観光ではパシュパティナートとブダナートを訪れました。パシュパティナートでは、赤い化粧をした猫に出会うという思いがけない出来事があり、移動中にはランゴリで彩られた寺院の入口で子供たちに声をかけられるなど、心に残る一日となりました。


ティハールとネワール暦
ティハールは、ヒンドゥー教で光の祭典として知られる五日間の祝祭で、ネパールの人々にとって欠かせない年中行事です。そしてこの時期は、ネワール暦の年末年始にもあたります。
ネワール暦は、ネワール族が受け継いできた独自の暦で、インド暦や西暦とは異なるサイクルを持ち、毎年10月下旬から11月にかけて新しい年を迎えます。ティハールの日程は、宗教暦(パンチャーンガ)によって半年ほど前に定められます。
今回の旅では、ティハールを目的に訪れ、ネワールの新年という二つの節目が交差する特別な雰囲気を体験できました。灯明に彩られた街並みと、新しい年を祝う人々の笑顔が重なり合い、普段の祭り以上に華やかで、同時に新しい始まりを感じさせる時間でした。
ちなみに2024年は10月30日~11月3日(今回体験した年)、2025年は10月19日~23日がティハールの期間で、3日目が大晦日、4日目が新年にあたります。
旅行者でも楽しめるティハールの魅力
ネパールでは、ティハールの前に「ダサイン」という最大のお祭りがあります。ダサインは家族で祈りや集まりを重ねるプライベートなお祝いで、ネパールの文化を深く理解するためには、とても大切な時期ですが、旅行者が参加する機会はあまり多くありません。
一方の「ティハール」は、街全体が光に包まれる華やかな祝祭。家々のディヤやランゴリの飾り、夜の祈りの風景、デウシ・レイの歌や踊りなど、外から訪れる人にも開かれた雰囲気があります。さらに、この時期はネワール暦の年末年始とも重なるため、新年を迎える特別な空気も感じられます。旅行者にとっては、ネパールの文化とお祝いを同時に体験できる貴重な機会です。
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まとめ
ティハールは、ネパールの光と祈りに包まれた特別なお祭りであり、家族や動物たちへの感謝が込められた5日間です。ディヤやランゴリで彩られた街、富の女神ラクシュミを迎える光景、そして歌や踊りが響くデウシ・レイなど、五感で楽しめる魅力に溢れています。
今回は2024年に体験したティハールを、実際の様子を交えて紹介しました。気になる方にとって少しでも参考になれば嬉しいです(*^-^*)
ティハールは、ネパールの文化や伝統を深く感じられる貴重なお祭りです。ネパールを訪れる機会があれば、ぜひこの美しい祭りの雰囲気を味わってみてください。
私自身も、いつかまたティハールの時期に訪れたいと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。









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